介護と仕事の両立に限界を感じたときにー辞める前に読むべき記事

辞める前に“辞めない方法”を探してみませんか。
特に男性が介護を抱えた場合、正規のフルタイムで働き続けるか、辞めるか、のふたつに一つの苦渋の選択をすることになりやすいようです。
介護と仕事の両立は、心身ともに大きな負担となり、毎日がとても辛く感じられることと思います。それは実際その立場になった人にしか分からない大変なご苦労があるとお察しします。ただ「退職」は最終的な選択肢として考えるべきだとお伝えしたいのです。
現在は利用できる支援制度や相談窓口が充実しています。
まずは「仕事を辞めずに続ける方法」を知ってから決断しても遅くないと思うのです。
辞めることの思わぬデメリット
介護と仕事の両立に限界を感じたときでも、退職を選ぶことには慎重になる必要があります。介護のための退職には、思っている以上に多くの不利益があるからです。
収入がなくなることは想像以上に大きい
介護のため退職をすると、まず毎月の安定した給料がなくなります。
失業給付を受け取れる場合でも、失業給付の金額は現役時代の給料の5~8割程度と大きく減り、受け取れる期間にも限りがあります。さらにその中から支払わなければならない健康保険料・国民年金保険料が重くのしかかることになります。
将来の生活費、医療費、自分自身の老後資金にも影響が出てきます。
再就職は簡単ではない
介護のために離職する人の多くが50代や60代です。この年代になると、離職期間が長引けば長引くほど再就職の難易度があがります。さらに、介護と仕事の両立が可能な職場を探すとなると、勤務時間や条件の制約があり、求人の選択肢はぐっと少なくなってしまいます。
介護は長期戦になりやすい
厚生労働省のデータによれば、自立した生活を送れる「健康寿命」と、人生の最期までの「平均寿命」との差が、介護が必要になる年数の目安とされています。2022年の統計では、男性の平均寿命が約81.05歳、健康寿命は約72.32歳で、その差は約8.73年。女性は平均寿命が約87.09歳、健康寿命が約74.63歳で、差は約12.46年となっています。この期間が「平均介護期間」とされ、男性は約9年、女性は約12年の長期にわたる介護が必要になるケースが多いようです。
(出典:厚生労働省「健康日本21(第二次)」推進専門委員会報告書、令和4年簡易生命表)
逆に短期間で終わることも
介護と仕事の両立に限界を感じ、思いきって退職したが、実際に介護が思ったより短期間で終わることもあります。たとえば、ご家族が数か月で回復したり、施設入所が決まって介護の負担が軽減されたケースなどです。
そのときいったん退職してしまうと、元の仕事に戻るのは難しく、再就職に時間がかかることや再就職後の収入が前職より大幅に下がる可能性が考えられます。収入やキャリアを一旦手離してしまうのは大きなリスクがあります。
介護の状況は刻々と変化します。だからこそ、まず介護休業や介護休暇、短時間勤務など、退職以外の選択肢を検討してみてほしいのです。
仕事が心の支えになることも
介護によるストレスは、想像以上に心身を疲れさせます。
仕事を続けていれば、社会とのつながりを持ち続けられ、心のバランスを保ちやすくなります。仕事があることで「介護だけの毎日」となることを避けられ、仕事が精神的な逃げ場となってくれます。
こんな支援制度があります ― 利用できる制度・仕組み一覧
介護と仕事の両立に限界を感じていても、支援制度を上手に活用することで、退職を避けられる可能性があります。仕事を続けながら家族の介護をするために使える制度は、意外と多く用意されています。
職場で使える制度
会社には、介護と仕事の両立を支える制度が整っている場合があります。
- 介護休業:一定の期間、介護のために仕事を休める制度です。雇用保険の給付があります。
- 介護休暇:通院の付き添いや手続きなど、一時的な休みに使えます。1時間ごとに利用できます。
- 短時間勤務(時短勤務):勤務時間を短縮して働けます。
- 所定外労働や時間外労働・深夜業の制限:時間外等の免除は法律によって労働者に一定の権利が保障されています。
- テレワーク:在宅勤務で、介護と仕事を同時にこなしやすくなります
これらを活用すれば、日々の負担を減らしながら仕事を続けられます。
地域や行政による支援
自宅での介護を一人で背負わずにすむよう、行政もさまざまな支援を提供しています。専門家の支援は心強い味方になります。
地域包括支援センター
介護の相談窓口で、情報提供や手続きのサポートを受けられます
ケアマネジャー
必要な介護サービスの計画を立ててくれる専門家です
訪問介護
ヘルパーが自宅に来て、身体介護や生活支援を行ってくれます。
私の母が寝たきりになった時に、訪問介護を利用し、清拭や洗髪をしてもらっていました。その道のプロの方が来てくれることがどれだけありがたかったか覚えています。
ショートステイ
一時的に高齢の家族を施設で預かってもらえるサービスです。原則として連続30日まで、要介護認定期間の半分の日数まで利用できます。
介護する側の心身の負担を軽くすることができます。1日でも2日でもご自分を休ませる時間を作ってください。
辞めずに済む道がある。早まらず、まず情報を知ってください
介護と仕事の両立に限界を感じても、退職を選ぶ前に「情報を集めること」がとても大切です。辞めずに続けられる方法や制度が意外と多く用意されています。
一度辞めると、元の職場に戻るのは困難
介護のために離職したあと、再び同じ職場や職種に戻ることは難しくなることが多いです。年齢やブランクの影響で再就職が思うように進まないケースもあります。だからこそ、今の職場でできる限り続ける方法を探すことが大切です。
実際に支援制度を活用した例
職場の理解や家族の協力、行政の支援があれば、限界に見えた状況でも乗り越えられる可能性があります。
50代男性(建設業・正社員)の事例【愛知県】
家族構成・状況:実父(80代・要介護1)、実母(80代・要介護5)は別居中。母親は脳出血で入院し、その後老人保健施設を経て有料老人ホームに入所。父親は一人暮らしとなり、本人と妻が実家に訪れて支援している。
利用した支援制度・サービス
・訪問介護サービス
・通所リハビリテーション
・介護保険の各種サービス
・妻との介護分担
仕事を続けながら介護サービスや家族の協力を受けて両立を実現。必要に応じて介護休暇や有給休暇も活用している。

50代男性(情報通信業・正社員)の事例【東京都】
家族構成・状況:実父(80代・要介護3)と離れて暮らしており、遠距離介護を実施。父親が誤嚥性肺炎で入院し、退院後に在宅介護を始めた。
利用した支援制度・サービス
・週1回実家でのテレワーク勤務
・年間5日の有給休暇取得
・訪問介護や通所リハビリなどの介護保険サービス
遠隔での介護をしながらテレワークや有給休暇を活用し、週末は実家へ帰省するなど柔軟な働き方で仕事と介護を両立している。

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企業の取り組み事例(ソフトバンク株式会社)
内容:介護休業は通算で最長1年間取得可能で、分割しての利用回数に制限がない。要支援1の状態から利用可能で、2親等以内の親族全てが対象となっている。
従業員の利用例:介護休業、時短勤務、テレワークを組み合わせ、家族や外部の介護サービスと連携しながら、仕事と介護を両立しているケースが複数報告されている。

まずは「相談」から始めるのが第一歩
介護の悩みを一人で抱え込まず、会社の人事部や上司に相談してみましょう。
また、地域包括支援センターやケアマネジャーも、介護に関するアドバイスやサービスの紹介をしてくれます。必要に応じて、介護休業や短時間勤務などの制度を使うこともできます。
あなた自身を守ることが家族を守ることに
介護が必要なご家族のことを思うあまり、自分を後回しにしてしまう人も少なくありません。しかし、自分の生活や健康を保つことは、長く家族を支えるためにも欠かせません。無理を重ねて体や心が限界を迎える前に、使える制度や支援を知って、できることから始めてみましょう。
今すぐできる3つのアクション
介護と仕事の両立に限界を感じたときは、一人で悩まず「今できる行動」を始めることがとても大切です。今からでもできる3つのステップをご紹介します。
1. 地域包括支援センターに相談する
介護の悩みや不安を感じたら、まずはお住まいの地域包括支援センターに連絡をしてみましょう。ここは高齢者とその家族のための総合相談窓口で、保健師、社会福祉士、ケアマネジャーなどの専門家が相談にのってくれます。電話や訪問での相談も可能なので、外出が難しい方にも安心です。介護サービスの利用方法や、自分に合った支援制度の紹介を受けることで、気持ちがぐっと軽くなることもあります。
2. 職場の人事や総務に支援制度について確認する
介護と仕事の両立が難しいと感じている方は、職場にある支援制度の内容を確認してみてください。会社によっては、介護休業、短時間勤務、テレワークなどの制度が用意されている場合があります。ただし、制度の利用条件は会社ごとに異なります。できるだけ早い段階で人事や総務担当に相談し、自分が利用できる制度を把握しておくことが重要です。
介護休業
一定の期間、介護のために仕事を休める制度です。最大で93日まで、分割で取得することもできます。休業中は雇用保険で給付があります。
・対象:要介護状態にある家族(配偶者、父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の父母など)を介護する労働者
・取得可能期間:対象家族1人につき通算93日まで
・分割取得:最大3回まで分割取得が可能
・雇用保険の介護休業給付金:休業前賃金の67%(給付率)を支給
・取得要件:原則、同一事業主に1年以上雇用されていることなど
介護休暇
基本的に無休ですが、通院の付き添いや手続きなど、一時的な休みに使えます。
・介護休暇とは、介護が必要な家族のお世話やサポートをするために使えるお休み
・対象となる家族には、配偶者、親、子ども、配偶者の親、祖父母、兄弟姉妹、そして孫が含まれ、同居しているかどうかは関係なし。
・1年間に取れる日数は、世話をする家族が1人なら5日まで、2人以上いる場合は10日まで。
・2021年からは、1日まるごとではなく、1時間ごとに使えるようになり、より使いやすくなった。
・介護休暇で行えることは、食事や排せつの介助などの直接的なお世話だけでなく、病院への付き添いや介護サービスの手続き、介護保険の申し込みなども含まれる。
短時間勤務(時短勤務)
勤務時間を短縮して働けます。
介護と仕事の両立をしやすくするために、通常の勤務時間を短くできる仕組みです。
会社によって違いがあり、例えば1日6時間勤務などのケースがあります。
就業規則や社内のルールをよく確認し、申請のタイミングや方法にも注意が必要です。
所定外労働や時間外労働・深夜業の制限
所定外労働の制限
介護のために、決められた勤務時間を超える残業を免除してもらえる制度です。
1回の申請期間は1ヶ月以上1年以内で、回数に制限はありません。
書面での申請が必要で、開始の1ヶ月前までに提出しなければなりません。場合によっては証明書類が求められることもあります。
時間外労働の制限
介護を理由に、法定労働時間を超えた残業を制限できる制度です。
1回の申請期間は1ヶ月以上1年以内で、何度でも申請可能です。
同様に書面で申請し、1ヶ月で24時間、1年で150時間を超える時間外労働を制限します。
深夜業の制限
介護が理由で、午後10時から午前5時までの深夜勤務を制限できる仕組みです。
1回につき1ヶ月以上6ヶ月以内の期間で利用でき、回数制限はありません。
申請は書面で行い、夜勤が難しい場合は早めの手続きをおすすめします。
テレワーク
在宅勤務で、介護と仕事を同時にこなしやすくなります
3. 家族で役割を話し合う
介護は一人で抱え込まず、家族で分担することが心身の負担を軽くする第一歩です。兄弟や配偶者と話し合い、それぞれがどのようなサポートができるのかを共有しましょう。「自分しかできない」と思い込まず、少しずつでも協力体制を整えることで、介護と仕事の両立がしやすくなります。
心が軽くなるひと言
「弱音を吐いたっていいがな 人間だもの たまには涙をみせたっていい 生きているんだもの」 ― 相田みつを『にんげんだもの』
「わたしたちは大きなことはできません。ただ、小さなことを大きな愛でするだけです。」 ― マザー・テレサ
「置かれたところで咲きなさい。咲くということは、仕方がないと諦めることではありません。それは自分が笑顔で幸せに生き、周囲の人々も幸せにすることです。」 ― 渡辺和子
「困難は笑って吹きとばせ:一笑すれば千山青し」 ― 禅語
おわりに。。
毎日、職場でも家庭でも気を張り続けて、「もう限界かもしれない」と思いながらも、誰にも弱音を吐けずに過ごしている方も多いのではないでしょうか。特に、責任感の強い男性の方ほど、踏ん張り続けてしまう傾向があると思います。そうやって日々を乗り越えているだけでも、本当に立派なことだと思います。
介護のために仕事を辞めるという決断は、人生を大きく左右します。けれど、退職は“最後の手段”として取っておいても遅くはありません。まずは「辞めずに続けるための道」を探すことから始めてみてください。行政の支援、介護サービス、職場の制度、そして家族の協力。使える手立てはあります。
「逃げ出したい」「このままではもたない」と思ったときは、無理に我慢せず、まずは相談してください。「相談する」ことは、弱さではなく、家族と自分自身を守るための強さです。
ほんの少しでも「辞めずに済む方法があるかもしれない」と思っていただけたら、それはとても大きな一歩です。
かけがえのないご家族との時間が、穏やかであたたかなものとなり、笑顔で満たされますように。
ありがとうございました。