介護離職してよかった、と言える人の考え方・共通点

「介護と仕事の両立に限界を感じたときにー辞める前に読むべき記事」(5月25日)
と反対のことを書きます。
もしあなたが「離職して親のそばにいたい」「自分の手で最期まで見届けたい」と心から願っているのなら、その思いをどうか大切にしてください。
たとえ世の中が「働きながら介護を」と言っても、厚生労働省が「介護離職ゼロ」政策を打ちだしていたとしても、あなた自身が「後悔したくない」「やり切りたい」と感じているのなら、それがあなたにとっての正解なのだと思います。
ただ、離職後の生活――お金のこと、自分の心や体のこと――不安は重くのしかかってきます。
だからこそ、その不安に丁寧に向き合うことが大切です。
もし、親やあなたの資産が充分にあり、生活の見通しが立てられるなら、思い切って離職し介護に専念するという選択もあるでしょう。
あるいは、「どうしても困ったら生活保護制度を使う」と割り切った上で、介護離職をすると決めたのなら、その覚悟もまた尊いものです。
でも、そうでないなら…「やっていける条件は何か」「自分は大丈夫なのか」しっかり検討しておくことは必要です。
なぜ介護離職を「してよかった」と感じられるのか
実際に介護離職を「してよかった」と思う人は多くいます。
その具体的な理由を見ていきます。
心と体の負担が減る安心感
仕事と介護を同時に行うことは、精神的にも体力的にも大変です。
介護していると夜中に何度も起きなければいけない日が続くことがあります。そして翌日、寝不足や、心身ともに疲れた状態で仕事をすることになり、仕事でミスのできない重要な場面で神経をすり減らして作業に取り組むことになります。また、そんな重要な場面でミスをしてしまうと職場での信用を一気になくしてしまうことになるでしょう。
離職して介護に専念することで、「仕事のプレッシャーから解放された」という声が多く聞かれます。心と体の余裕ができると、介護に対しても前向きに向き合いやすくなります。
「介護離職をしてよかった」と感じる大きな理由のひとつは、この負担の軽減にあります。
介護に集中できる余裕がある
介護に十分な時間と気持ちの余裕があることも理由の一つです。
家族と過ごす時間が増え、しっかり話をしたり、十分時間をかけて援助してあげることができます。時間の余裕があると気持ちにも余裕がうまれ優しく接してあげることができます。優しく接してあげると介護される側にもその優しい気持ちが伝わって穏やかな気持ちで過ごせるでしょう。
そんな、あたたく濃密な時間を過ごせると「してよかった」と感じる瞬間が増えます。そして介護に取り組む中で、親孝行の実感や充実感を得ることができ介護を続けていく上でのモチベーションになります。
介護にかかる費用を抑えられることもある
介護サービスを利用する回数や内容を見直せる場合、支出の節約につながります。家で過ごす時間が増えることで、外出にかかる費用やサービス利用料が減ることもあります。
遠くに住んでいる家族の介護では、自分の時間を増やして効率よく対応できるため、思ったよりも経済的負担が減ることがあります。
こうしたメリットも、「介護離職してよかった」と思う理由の一つです。
ゆとりが生まれ、達成感を感じられる
家族の介護を自分の手でできるという安心感や、親孝行をしているという実感は、精神的な支えになります。
「介護離職をしてよかった」と感じる人は、この心の安らぎや達成感を大切にしています。
負担の多い介護の中でも、「自分の選択に誇りを持てる」ということが、前向きな力となるのです。
「介護離職してよかった」と言える人の共通点
「介護離職してよかった」と感じる人には、いくつかの共通点があります。その共通点とは。
経済的な準備ができている
介護離職という決断において、最大の壁となるのは、やはり「経済的な不安」です。多くの人がこの問いに立ち止まります。逆に言えばこの最大の壁を超える策があれば介護離職はうまくいくでしょう。まさに介護離職を成功させるための“鍵”は経済的な準備ができているかどうか、と言っても過言ではありません。
実際に「介護離職してよかった」と言える人たちは、事前にしっかりと経済的な見通しを立てている人が多いです。必要な支出を事前に洗い出し、公的な支援制度を活用することも計算に入れ準備を進めます。場合によっては地域包括支援センターに相談したり、ケアマネジャーに制度の使い方を聞いたりします。
経済的な備えがあり、やっていける見通しがあることではじめて、介護離職は現実的な選択肢になります。
支援を受けられる環境がある
介護は一人で抱え込むと大変です。一人で抱え続ければ、心も体もすり減ってしまいます。そんなとき、周囲の支えがあるかないかは非常に大きいです。どんなに大好きで大切な人の介護であっても大変な局面を一人で乗り越えようとすると心が壊れそうになることがあります。「支えを借りながら続ける力」を持っている人が、長く、穏やかに介護と向き合えるのだと思います。地域の相談窓口や行政サービス、家族や友人の助けを借りられる人は、「してよかった」と感じることができます。
将来の見通しがある
離職後の再就職や生活の計画を立てていることも重要です。
介護離職を選ぶとき、多くの人が不安に感じるのが「その後の働き方」ではないでしょうか。
これまで築いてきた人脈や経験を活かして再就職を目指したり、個人事業主として仕事を請け負ったりする道があるなら――将来の可能性は、ぐっと広がっていきます。
特に、再就職が難しいと言われるシニア世代にとっては、これまでの肩書やキャリアに縛られず、「新しいことにも挑戦する」柔軟な姿勢が、とても大切になります。
その後の生活の見通し――再就職や起業、キャリアの再構築など――しっかりと描けていると「介護離職をしてよかった」と思うことができます。
自分の意思で決めている
誰かに言われたから、そんな理由で選んだ道は、あとになって自分の心を苦しめてしまうことがあります。大切なのは「自分の意思で介護離職を選んだのだ」ということ。誰かの期待のためでも、義務感からでもなく、「自分がそうしたい」と心から思い、「自分の手で介護したい」「そばにいたい」という気持ちがあれば、どんなに大変な日々にも、意味を見いだすことができます。自分の中にそのしっかりとした軸があれば、たとえつらい場面があっても踏ん張れる力になります。自分の想いで一歩を踏み出す、その選択が、きっとあなた自身を支えてくれます。
平均的な介護費用の目安
厚生労働省と生命保険文化センターの調査結果をもとにした、平均的な介護にかかる費用の目安です。
◆ 初期費用(介護の始まりにかかるお金)
・介護用ベッドの購入、住宅の手すり設置など
・平均:約74万円
◆ 月々にかかる費用(介護サービスの利用など)
・平均:月額約8.3万円
◆ 介護の期間
・平均:5年1ヵ月(約61ヵ月)
◆ 合計でかかる費用の目安
・74万円 +(8.3万円 × 61ヵ月)= 約580万円
※介護保険を利用したうえでの自己負担額の平均です。
(参考)介護する場所によっても変わる費用
介護の形によって、かかる金額は大きく変わります。
- 在宅介護:月額平均 約4.8万円
- 施設介護:月額平均 約12.2万円
※あくまで目安のため、実際は介護内容や地域によって異なります。
生活費
- 生活費を月15万円と仮定し、介護期間(61カ月)で計算
15万円 × 61カ月 = 915万円
生活費+介護費用の合計
- 915万円(生活費)+ 580万円(介護費用)= 1,495万円
安心して離職を選ぶためのポイント
- 介護に必要な費用は「介護費用」と「生活費」の合計で考える必要があります。
- 実際には、介護の内容や生活水準、家族構成、施設利用の有無などで必要額は変動します。
- 公的年金や貯蓄、介護保険などの収入も考慮しつつ、早めの準備が重要です。
厚生労働省や関連調査によると、介護期間平均5年1カ月(約61カ月)で「生活費を月15万円」とした場合、生活費と介護費用を合わせて約1,500万円程度が目安となります。この金額はあくまで平均的な目安であり、個々の状況に応じて再計算が必要です。
離職後の生活設計を立てるのは必須です。「介護離職してよかった」と心から思えるように、経済面の備えや支援制度の活用なども視野に入れて、ひとつひとつ準備していきましょう。
おわりに。。
介護離職をしても、「介護離職してよかった」と思える未来はつくることができます。大切なのは、情報を集め、選択肢を知ったうえで、自分の意思で納得して決めることです。
介護離職を通じて、家族との関係が深まり、かけがえのない人と濃密な時間を過ごせたり、自分の生き方を見つめ直す時間が生まれたりした人は、「介護離職してよかった」と語っています。また、再就職や起業するなど新しい働き方に挑戦した人も、よかったと実感できることでしょう。
あなたとあなたの大切な人との時間が、穏やかであたたかいものとなりますよう。
ありがとうございました。