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免許返納を説得できない…そんなときに効果があった方法とは? 

miyabimegud

母は車の運転がとても好きな人でした。

助手席に乗るより自分で運転する方が好きで、どこへでも自分の運転で出かけていました。
交通機関を使うにはとても不便な町だったこともあり、車を取り上げられることはまさに、自分の足がなくなる想いがして辛かったのだと思います。

母の説得には時間がかかりましたが、粘り強く向き合い返納に至りました。今つまずいている方も諦めずに、この記事をヒントに一歩ずつ進めてみてください。

説得がうまくいかなかった家族の共通点とは?

多くの家族に共通するのは、伝え方に“感情”や“一方通行”が混ざってしまっていることです。
どれだけ心配しているか、どれほど事故が怖いか――その気持ちが強ければ強いほど、説得の言葉はときに鋭くなり、結果として話が進まなくなってしまうのです。

感情的になってしまうと、気持ちがすれ違う

何度話しても聞いてもらえない。どうしたらわかってくれるのか。もどかしさからつい、「もういい加減にしてよ!」「どうしてわかってくれないの?」という言葉が口をついて出ます。
しかし、相手にとっても「気持ちをわかってもらえない」または「責められている」と感じる瞬間になり、心のシャッターを閉じてしまいます。

「危ない」「もう年だから」は、受け入れられない

心配する気持ちから、「もう年だから運転は危険だよ」と言ってしまうことがあります。
けれども、こうした言葉は「まだ運転できる」「事故を起こしていないのに」と反発を強めます。高齢者本人の自尊心を傷つけることになるのです。
「年齢だけで判断されたくない」という気持ちも潜んでいます。たしかに年齢より「その人による」ものが大きいことが免許返納の説得が簡単にいかない点です。

一方的に話す、は心が動かない

説得が強引になると、本人との関係が悪くなります。「自分の意志を無視された」と感じるのでしょう。説得どころか会話そのものが難しくなってしまいます。

そして家族間での意見もぶつかり始めたり、周りの親戚との関係が悪化することに発展することもあります。「こうすべき」「やめてほしい」と、良かれと思って伝えたはずの言葉が、結果的に対立を生むのはつらいことです。

なぜ免許返納を拒否するのか?

母が免許返納を拒んだのは、生活の自由を奪われる気持ちだったのでしょう。
さらに、運転できない自分を受け入れたくなかったのかもしれません。

母のように高齢者の多くは、「運転をやめることは、生活の自由と自分らしさを失うこと」だと感じます。この深い心理が根底にあるので、たとえ家族が何度も心を込めて説得しても拒否されてしまうのです。

まだ運転できるという強い自信

「事故を起こしたことがない」「長年無事故でやってきた」という自負がある高齢ドライバーは多く、自分の運転能力に自信を持っています。
本人にとっては、「まだ運転できる」という感覚が事実であり、それを否定されると、自分の存在価値や尊厳を傷つけられたように感じてしまいます。
そのため、「もう年だから」などの言葉は、納得ではなく反発を生む原因になりやすいのです。

移動手段を失うことへの不安

特に交通手段の選択肢が少ない地域では、車は単なる乗り物ではなく、「生活を維持する道具」です。
日々の買い物、通院、友人との交流など、多くの行動を車に頼っているため、免許返納は「自由を奪われること」そのものなのです。
この不安が強いほど、免許返納を説得できない状況は長引いてしまいます。

運転は自立と生きがいの象徴

車を運転することは、高齢者にとって「まだ自分の力で生きていける」という自立の証でもあります。自立の証を奪われた高齢者の心には、「もう家族の手を借りないと生活できないのか」という喪失感や寂しさ、不安が静かに広がっています。
また、外出のきっかけや、社会と関わる手段になっていることも多いので、運転を手放すことは生活の楽しみを手放すことに直結しているのです。

実際に効果があった!説得のコツとアプローチ方法〈体験談〉

客観的なデータや具体策をそろえ、プライドを傷つけない伝え方をすると効果があります。
また、専門家の後押しを得ることで免許返納の説得ができない壁は動き出します。

①運転能力チェックが現実を映した

78歳の母は「まだ事故はゼロだ」と胸を張り、免許返納を説得できない日々が続いていました。
家族が提案したのは教習所の高齢者向け運転適性テスト。結果は反応速度が平均を下回り、講師から「夜間は危険」と指摘されたのです。
数値と専門家の言葉は母の自信に静かに揺さぶりをかけ、「少し考えるかな……」という言葉に初めてつながりました。

運転適性相談窓口について(警察庁ホームページ)

②移動の不安を一緒に解消

次に立ちはだかったのは「車なしでは暮らせない」という不安でした。
家族全員で地域バスの時刻表を貼り出し、タクシーの定額サービスや買い物代行のカタログを並べました。
さらに孫が「日曜は送迎係になる」と宣言したのも大きかったようです。具体策が可視化され、「案外なんとかなるかもしれない」と今までかたくなに拒否していた母の表情が変わってきました。

③段階的提案でプライドを守る

いきなり返納を迫るのではなく、「来年の誕生日まで昼間だけ近距離運転」という期間限定プランを提示しました。母自身に期限を決めてもらったことで、母は“自分で決めた”という満足感を得て気持ちを固めていきました。

④専門家のひと言が背中を押す

主治医に経緯を事前に共有し、診察後に「次の検診で返納の報告を聞けたら安心です」と声をかけてもらいました。その帰り道、母は「主治医の先生に言われた」ことで納得して返納を決意しました。
専門家であり第三者である主治医の助言は、本人に大きく響きました。主治医の言葉は家族の想いを、客観的な意見に格上げしてくれました。

自分で気づき手放した父のケース

父は、ある時から車を何度かぶつけていたようです。しかしぶつけたことは家族には言いませんでした。隠していたかったのかもしれませんが車にはぶつけた後が残っていました。
それから「次はどうなるか」と家族が不安になる中、本人が「もう危ないかもしれない」と気づき、自ら運転をやめる決断をしたのです。
取り返しのつかないことが起きる前に手放してくれたという安堵の気持ちでいっぱいでした。
このように軽微な事故を何度か起こすことで本人が気づくこともあります。

話し合いがうまくいくための4つのポイント

不安の正体を理解し、本人の不安を言語化しひとつずつ取り除くことが鍵です。

「わがままを言っている」と受け取らず、拒否の裏にある生活に対する不安や、根底にある本当の理由を理解しようとすることです。

生活の不便さへの不安に寄り添う

免許を手放すことで、買い物や通院といった日常生活が成り立たなくなると本人が感じていれば、どんなに正しい理由でも受け入れられません。
まずは、地域のバスやタクシーの割引制度、買い物代行サービス、通院の送迎支援など、具体的な選択肢を一緒に調べ、本人に合った方法を提示することで、「生活できる」という安心感を持ってもらえます。

自由や楽しみが奪われることへの恐れに配慮する

運転は単なる移動手段ではなく、「好きな時に好きな場所へ行ける自由」や「社会とのつながり」の象徴でもあります。
急にそれを失うと、閉じ込められたような気持ちになるのだと思います。
「代わりに一緒に出かける機会を増やそう」「週に一度は買い物に付き合う」など、新たな楽しみを提案することで、「自由を奪われる」感覚をやわらげることができます。

本人の心に届かない言葉は使わない

「まだ元気な人だって運転しているのに」「危ないからすぐにやめて」など、
たとえ正論でも本人の心に届かない言葉は避けましょう。
感情的にならず、焦らせず「長く元気でいてほしいからこそ」という愛情を込めた言葉で、少しずつ納得へと導くことが大切です。

孫が説得する方法も有効

子供の言葉にはつい意地を張る父母も、目に入れても痛くない孫のひと言には耳を傾けることが多いようです。

「おじいちゃんが事故にあったら悲しいよ」とそのまま伝えるだけで気持ちが動く可能性があります。実際に、子供から何度促されても動かなかったのに、孫のたった一言で返納を決めた例は少なくありません。
ただし孫に説得を頼む際は、過度な負担をかけず、祖父母を思う温かな気持ちを伝えてもらうだけで十分です。
説得が行き詰まったときは、孫の力を借りることを試してみる価値はあります。

返納すると特典があることを伝える

返納するとよいことがあることを伝えて、心を動かす方法も有効です。
各地の支援策には交通費の負担軽減や買い物サポートなどがあります。
特典内容は地域によってさまざまですが、バス・鉄道・タクシーの運賃が各社提携で優待価格になったり、定期預金の金利上乗せ、見守りサービス割引など官民連携で拡大中です。
地域で用意されているお得な支援サービスを本人に紹介し、前向きに検討してもらいましょう。

各都道府県の返納サポート情報を見る

全国の自治体ごとの免許返納支援サービスを確認できます。お住まいの地域をタップしてください。

北海道・東北

北海道青森県岩手県宮城県秋田県山形県福島県

関東

茨城県栃木県群馬県埼玉県千葉県東京都神奈川県

中部

新潟県富山県石川県福井県山梨県長野県岐阜県静岡県愛知県

近畿

三重県滋賀県京都府大阪府兵庫県奈良県和歌山県(←※キーワードで探す)

中国

鳥取県島根県岡山県広島県
山口県(←※特典については市役所、区役所、支援サービス提供している企業へお問い合わせください)

四国

徳島県香川県愛媛県高知県

九州・沖縄

福岡県佐賀県長崎県熊本県大分県宮崎県鹿児島県沖縄県


(※詳細は自治体窓口や警察、協賛事業者にお問い合わせください。)

新たな選択肢|サポートカー限定免許

強い拒絶が続く場面では、サポートカー限定免許という新しい選択肢があります。
運転を完全にやめさせるのではなく、より安全なサポートカーに限定して運転を出来るようにするものです。免許返納だけでなく、安全機能を備えた車に限って運転を認める新しい制度です。

サポートカー限定免許とは

この免許は、衝突被害軽減ブレーキやペダル踏み間違い防止装置などを搭載した「サポカー」「サポカーS」と呼ばれる車だけを運転できる条件付き免許です。
高齢者の安全運転を支える制度として、国と民間が協力して普及を進めています。

自立心を守りながら、安全も確保

「安全機能のある車で続けてみない?」と提案すれば、自立を尊重しつつ安全性を高めることができます。家族の気持ちも、本人の気持ちも守るバランスのとれた方法です。

手続きは更新時に可能

サポートカー限定免許の申請は、運転免許の更新と同時に行うことができます。年齢に関係なく誰でも申請可能なので、「そろそろ心配…」と思ったときに検討できます。

生活の足を残しつつ、安心を得る

特に公共交通が少ない地域では、免許返納が生活の不安につながることもあります。
そんなとき、サポートカー限定免許は“完全にやめる”のではなく、“安全に続ける”ための現実的な選択です。

サポートカー限定免許について|警察庁Webサイト(対象車両リストあり)

おわりに。。

免許返納を説得できない、と悩む状況が続くと、心が折れそうになることもあります。
けれど、最も大切なのは「家族として心から大切に思っている」という想いを、しっかりと伝えることです。
「もし事故に巻き込まれたら、本人だけでなく家族全員の人生に深く影響する」といった切実な気持ちを、時間をかけ、本人の自尊心を傷つけず、届け続けていくことが必要です。
これまで家族を支え、長年頑張ってきたからこそ、最期まで穏やかに暮らしてほしい——その願いは、誰もが持っているものです。
「命を守りたい」「これからも笑っていてほしい」と伝えることです。
そして免許返納後の生活を、家族が支えていく姿勢がなにより大切です。
焦らず、少しずつ気持ちを伝え続けていきましょう。

ありがとうございました。

ABOUT ME
みやびめぐ
みやびめぐ
ブロガー/キャリアカウンセラー
新潟育ち北海道在住です。娘ふたりは大学進学のため道外へ。 血中カフェラテ濃度高めのカフェラテ好きです。
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